デザイン経営とは?

中小企業が取り組む意味と、最初に考えたいこと


「デザイン経営」と聞くと、ロゴを新しくしたり、Webサイトや商品パッケージをきれいに整えたりすることをイメージする人も少なくありません。しかし、本来のデザイン経営は、企業の見た目を良くするためだけの取り組みではありません。 経済産業省・特許庁では、デザイン経営を、デザインの力を「ブランドの構築」と「イノベーションの創出」に活用する経営手法として位置づけています。


大切なのは、経営側が決めたものを最後にデザイナーが整えるのではなく、「誰のために、どのような価値を生み出すのか」という段階からデザインの視点を取り入れることです。 顧客やユーザーを起点に、自社がまだ気づいていない課題やニーズを見つける。自社の強みや技術を見直す。そして、商品やサービス、ブランド、組織、コミュニケーションのあり方を考え、試しながら改善していく。 これらもすべてデザイン経営の領域です。


特に中小企業では、経営者の考え、企業が持つ技術や強み、顧客が感じている価値が、十分に言語化されていないことがあります。また、事業は変化しているのに、昔につくられたロゴやWebサイト、営業資料、採用活動などがそのまま残り、「実際の会社」と「外から見える会社」にずれが生まれているケースもあります。 デザイン経営は、こうしたずれを整えると同時に、これから企業がどのような価値を生み出していくのかを考える方法でもあります。 この記事では、デザイン経営とは何かという基礎から、中小企業が取り組む意味、ブランド構築とイノベーションとの関係、具体的な進め方までを整理します。

DESIGN MANAGEMENT

1.デザイン経営の基礎を「見た目の改善」で終わらせない

デザイン経営を理解するとき、最初に見直したいのが「デザイン=見た目を整える仕事」という捉え方です。 もちろん、ロゴ、Webサイト、会社案内、商品パッケージ、店舗などの視覚的なデザインは企業活動において重要です。 しかし、それらはデザインの役割の一部にすぎません。


デザイン経営では、制作物をつくるより前の段階からデザインの考え方を活用します。 例えば、 「顧客は、本当は何に困っているのか」 「現在の商品やサービスで解決できていないことは何か」 「自社の技術や強みを、別の価値へ転換できないか」 「これからどのような顧客から選ばれたいのか」 「5年後、どのような会社になっていたいのか」 といった問いから考えます。


ここで重要なのは、自社の視点だけで答えを出さないことです。 経営者や社員が「これが強みだ」と考えていることと、顧客が実際に価値を感じていることは必ずしも一致しません。 だからこそ、顧客やユーザーを観察したり、話を聞いたり、実際にサービスを利用する場面を考えたりしながら、まだ言葉になっていない課題や期待を探ります。 そこから、新しい商品やサービスを考えることもあれば、既存の商品を改善することもあります。


一方で、自社が何を大切にし、どのような価値を提供する企業なのかを整理し、商品、サービス、営業、採用、Webサイト、店舗などへ一貫して反映していくことも重要です。 つまりデザイン経営には、大きく二つの方向があります。 一つは、自社らしさを明確にし、顧客との関係を積み重ねる「ブランドの構築」。 もう一つは、ユーザーの課題を発見し、新しい商品・サービス・事業を生み出す「イノベーションの創出」です。 この二つを経営と結びつけることが、デザイン経営の重要な考え方です。

  • デザイン経営は、ロゴやWebサイトなどの「見た目を良くする活動」だけではない。

  • 事業戦略や商品・サービスを考える上流段階から、デザインの視点を取り入れる。

  • 企業側の都合だけではなく、顧客・ユーザーを起点に課題やニーズを捉える。

  • デザイン経営には「ブランドの構築」と「イノベーションの創出」という二つの重要な役割がある。

  • 考えて終わるのではなく、試し、検証し、改善を繰り返しながら企業活動へ実装していく。

THREE POINTS
2.デザイン経営で押さえたい3つのポイント

デザイン経営を実践するために、必ずしも大規模なブランド刷新や新規事業を始める必要はありません。 まず重要なのは、「人を起点に考える」「経営とデザインをつなぐ」「試しながら改善する」という3つの視点です。 この3つを意識すると、デザインを単なる制作業務ではなく、経営や事業を考えるための手段として活用しやすくなります。

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    #01

    人を中心に、まだ見えていない
    課題を探す

    企業側が良いと思う商品でも、顧客にとって価値があるとは限りません。また、顧客自身も本当のニーズを言葉にできないことがあります。 「なぜ使うのか」「どこに不便を感じるのか」「本当は何を実現したいのか」を観察し、潜在的な課題を探ります。 製造業なら、技術そのものではなく、その技術が顧客にどんな変化をもたらすか。サービス業なら、利用前から利用後までの体験全体を見る。こうした人を起点にした視点が、デザイン経営の出発点です。

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    #02

    経営の上流からデザインを取り入れる

    デザイン経営では、決まった内容を最後にデザイナーへ渡し、見た目だけを整えるのでは十分ではありません。 事業戦略や商品開発、サービス設計などの早い段階から、 「なぜつくるのか」 「誰のどんな課題を解決するのか」 「競合とどう違うのか」 を考えることが重要です。 経営、営業、開発、広報、デザインなど異なる立場で議論することで、事業を見る視点も広がります。 デザインには、答えを形にするだけでなく、問いを立て、課題を発見し、経営と一緒に答えをつくる役割があります。

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    #03

    完成を目指すより、試して改善する

    デザイン経営では、最初から完璧な答えをつくる必要はありません。 仮説を立て、小さく試し、顧客や市場の反応を見ながら改善していきます。 新しいサービスなら小規模なテスト、Webサイトなら公開後の反応分析、採用なら応募者の反応を見ながら伝え方を調整する、といった進め方です。 つくる→試す→学ぶ→改善するという循環を繰り返すことで、取り組みの精度を高めていきます。 特に中小企業では、会社全体を一度に変えるより、重要なテーマから小さく始める方が現実的です。

PRACTICAL THINKING
3.デザインを経営会議に持ち込むための問い

デザイン経営を実務へ取り入れようとしても、「経営会議で具体的に何を話せばよいのかわからない」という企業は少なくありません。

デザイン経営を実務へ取り入れようとしても、「経営会議で具体的に何を話せばよいのかわからない」という企業は少なくありません。 その場合、「ブランドを良くしたい」「新しい商品をつくりたい」といった抽象的なテーマを、具体的な問いへ置き換えることが有効です。 例えば、


・顧客はなぜ競合ではなく自社を選んでいるのか

・顧客がまだ言葉にできていない不満はないか

・自社の技術を、別の顧客課題に活用できないか

・現在の商品・サービスで当たり前だと思っていることを疑えないか

・5年後、自社はどのような会社になっていたいのか


といった問いです。 こうした問いを経営者だけで考えるのではなく、営業、開発、製造、広報、デザイナーなど異なる立場の人と議論することで、自社だけでは気づかなかった課題が見えてくることがあります。 例えば「Webサイトをリニューアルしたい」という要望があったとしても、その背景を掘り下げると、本当の課題は別のところにあるかもしれません。 「若い人材が採用できていない」 「新しい事業が顧客に認知されていない」 「昔の企業イメージから脱却できていない」 「競合との違いを説明できていない」 こうした場合、Webサイトだけをきれいにしても根本的な解決にはなりません。


まず、顧客、事業、ブランド、組織の課題を整理したうえで、「何を変えるべきなのか」を考える必要があります。 制作やプロジェクトの途中で迷ったときには、次のような問いに戻ります。 誰のための取り組みなのかその人は本当は何に困っているのか自社だから提供できる価値は何かこれまでの常識を疑える部分はないかこの取り組みはどの経営課題につながっているかどのような体験を生み出したいかどんな小さな方法で仮説を試せるか何をもって成果と判断するかデザインについて考えることは、企業の見た目について考えることだけではありません。 顧客について考え、事業について考え、企業の未来について考えることでもあります。

Think Design Management
4.デザイン経営を考える

BUSINESS|事業

まず考えたいのは、「何を提供する会社なのか」という事業そのものです。 どのような顧客に、どのような価値を提供するのか。 現在の商品・サービスは、顧客のどのような課題を解決しているのか。 自社の技術、知識、ノウハウを別の価値へ転換できないか。 市場や顧客が変化したとき、新しい商品やサービスを生み出せないか。


デザイン経営では、既に完成した商品を「どう見せるか」だけではなく、そもそも何をつくるべきかという段階から考えます。 顧客やユーザーを観察することで課題を発見し、自社の強みと掛け合わせることで、新しい商品、サービス、事業につながる可能性があります。 ここが、単なるブランディングやデザイン制作とデザイン経営を区別する重要なポイントです。

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ORGANIZATION|組織

企業が目指す方向を決めても、それが経営者だけの考えで止まっていては実現できません。 理念、ミッション、ビジョン、バリュー、ブランドコンセプトなどを整理し、社員が日々の仕事で判断できる状態をつくる必要があります。


例えば、 「どんな顧客を大切にするのか」 「商品を開発するとき何を優先するのか」 「仕事で迷ったとき何を基準にするのか」 といった考え方です。 こうした判断基準が共有されることで、営業、開発、製造、採用、広報など異なる部門でも、同じ方向を向きやすくなります。


また、経営とデザインをつなぐためには、デザイナーだけへ任せるのではなく、経営者自身がデザインの役割を理解し、経営課題を共有することも重要です。 デザイン経営は「デザイン部門の仕事」ではなく、会社全体で取り組む経営活動だからです。

住宅リフォーム26

EXPERIENCE|表現・体験

企業の考え方は、最終的に顧客が接するさまざまな体験として現れます。 商品、サービス、ロゴ、Webサイト、会社案内、パッケージ、店舗、空間、営業資料、SNS、広告、接客などです。 重要なのは、それらを個別の制作物として考えないことです。


例えば、「長く安心して付き合える企業」を目指しているのであれば、広告だけでその言葉を掲げるのではなく、問い合わせ対応、営業、商品、アフターサービスなども含めて、その価値を感じられる必要があります。 反対に、高品質な商品を提供していても、Webサイトや営業資料、接客などに一貫性がなければ、顧客には本来の価値が十分に伝わらない可能性があります。


ブランドとはロゴそのものではなく、顧客が企業とのさまざまな接点を通じて蓄積していく印象です。 そのため、デザイン経営では、企業が提供したい価値と実際の顧客体験をできるだけ一致させていくことが重要になります。

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Renewal Process
5.中小企業がデザイン経営を進める5つのステップ

デザイン経営には、「必ずこの順番で進めなければならない」という一つの正解があるわけではありません。 企業が抱えている課題によって、商品開発から始める場合もあれば、採用、Webサイト、事業承継、企業理念の整理などから始める場合もあります。 特に中小企業では、自社が抱えている課題に近い「入り口」から始め、小さく実践しながら活動を広げていく方法が適しています。 ここでは、実務で取り組みやすい基本的な流れを5つのステップに整理します。



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  • STEP 1|経営課題と目指す未来を共有する


    売上、新規事業、商品開発、採用、事業承継、企業イメージ、営業力など、課題によってデザイン経営の入り口は変わります。 例えば「ロゴを変えたい」という要望があっても、その背景には「事業承継を機に会社を変えたい」「新しい事業が増え、昔の企業イメージと合わなくなった」といった経営課題が存在するかもしれません。 表面的な制作要望ではなく、その背景まで掘り下げます。

    [確認したいこと]

    ・現在、最も重要な経営課題は何か

    ・なぜ今取り組む必要があるのか

    ・数年後どのような会社になりたいか

    ・経営としてどこまで変える意思があるか

  • STEP 2|顧客・ユーザーと自社を観察する


    顧客へのインタビュー、営業担当者へのヒアリング、店舗やサービス利用の観察、問い合わせ内容、口コミなどから、「なぜ自社を選んでいるのか」「どんなことに困っているのか」「本人もまだ明確に意識していない課題はないか」 を探ります。 さらに、自社の技術、ノウハウ、企業文化、歴史なども見直します。

    [確認したいこと]

    ・誰が商品・サービスを利用しているか

    ・顧客が実際に感じている価値は何か

    ・まだ解決できていない不便や課題はないか

    ・自社にしかない強みや資源は何か

  • STEP 3|提供価値とブランドの軸を定める


    調査した内容をもとに、「誰に」「どのような価値を」「なぜ自社が提供するのか」 を整理します。 必要に応じて、企業理念、ミッション、ビジョン、ブランドコンセプトなども言語化します。 ここで重要なのは、きれいなスローガンをつくることではありません。 実際の商品開発、サービス、採用、営業、広報などで使える判断基準をつくることです。

    [確認したいこと]

    ・誰に価値を届けたいか

    ・どんな課題を解決したいか

    ・自社だから提供できる価値は何か

    ・これからどんな企業として認識されたいか

  • STEP 4|小さく形にして試す


    方向性が決まったら、実際に形にします。 商品やサービスの試作品をつくる。 採用サイトの一部を変えてみる。新しい営業資料を使ってみる。イベントで新しいサービスを試してみる Webサイトを改善する。重要なのは、最初から完成形を目指すのではなく、仮説を検証できる形をつくることです。実際に顧客や社員へ見てもらい、反応を確認します。

    [確認したいこと]

    ・最も小さく試せる方法は何か

    ・誰に試してもらうか

    ・どんな反応を確認したいか

    ・仮説が間違っていた場合、何を変えるか

  • STEP 5|検証・改善しながら会社全体へ広げる


    実践した結果を確認し、改善します。 売上だけではなく、問い合わせ数、商談率、新規顧客の増加、社員の理解度、新商品・サービスの創出 など、目的に合わせて指標を設定します。成果が出た取り組みは、商品、採用、営業、店舗など他の接点へ展開していきます。必要に応じてブランドガイドラインや社内ルールを整備することで、会社全体へ考え方を定着させることもできます。
     

    顧客や市場は変化します。 事業も変化します。 その変化を再び観察し、新しい課題を見つけ、また試す。 観察→仮説→実践→検証→改善 という循環を続けることが、デザイン経営を一過性のプロジェクトで終わらせないために重要です。

まとめ


デザイン経営とは、ロゴやWebサイトなどの見た目を整えることだけではありません。 顧客やユーザーを中心に考え、まだ見えていない課題を発見し、自社の強みと掛け合わせながら新しい価値を生み出す。 そして、自社が何を大切にし、どのような価値を提供する企業なのかを明確にし、商品、サービス、組織、採用、営業、コミュニケーションなどへ一貫して反映していく。 つまり、「ブランドを育てること」と「新しい価値を生み出すこと」の両方を、デザインの力によって経営につなげていく取り組みです。


特に中小企業では、経営者の考え、現場が持つ技術やノウハウ、顧客が感じている価値が近い距離に存在しています。 これは、デザイン経営に取り組むうえで大きな強みです。一方で、それらが経営者個人の感覚や経験の中に留まり、十分に言葉になっていないケースも少なくありません。だからこそ、「自社は誰のために存在しているのか」「顧客は何を求めているのか」「自分たちにしか提供できない価値は何か」「これからどのような会社になりたいのか」を改めて考えるところから始めます。


最初から会社全体を変える必要はありません。 新商品、採用、Webサイト、事業承継、企業理念の整理など、自社にとって重要な一つのテーマから始め、顧客や社員の反応を見ながら改善していく。 その小さな実践の積み重ねが、やがて商品、サービス、組織、ブランド全体を変えていきます。デザインを「決まったものを最後にきれいにする仕事」から、人を起点に課題を発見し、企業の未来と新しい価値を形づくるための経営の方法へ。そこから、デザイン経営は始まります。


とはいえ、「何から始めればいいのかわからない」「自社の場合、どこにデザインを取り入れるべきかわからない」という企業も多いと思います。 MERRY BEETLEでは、ロゴやWebサイトといった制作物だけを考えるのではなく、経営者や社員の皆さまと対話しながら、事業の強みや課題、これから目指したい姿を整理し、それを事業・組織・表現へつなげていくところからご一緒しています。まだ課題が明確になっていない段階でも構いません。「こんなこともデザイン会社に相談していいのだろうか」ということからでも、ぜひお気軽にMERRY BEETLEへご相談ください。


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Writer

1986年大阪生まれ。神戸大学卒業後、nendoを経て2016年、MERRY BEETLE設立。モノ・サービスや企業のブランディングにおける、デザイナーと企業の共通言語をつくるべく活動している。好きなものはクワガタ、カブトムシ、ウルトラマン(特にA)、そして焼きそば。


株式会社メリービートル 代表取締役

一般社団法人TOGU 代表理事
堺デザイン協会 理事
大阪デザインセンター(ODC) 評議員

大阪府地域資源活用・地域連携プランナー

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